この町に手紙は来ない
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この町には何もなかった。
少しばかりの拓けた土地と建材に使えそうな木々の生えた林、この土地を打ち捨てた居住者が土中に放置した種芋があるばかりだった。
それでも二人はこの町に居を構えることにした。逃げ出した二人には他に選択の余地がなかったし、二人でいられさえすればどこでもいいと思っていた。心から、そう思っていた。
その五年後、凶報の使者がこの町にやって来た。
その五十年後、この町には正反対の性格をした二人の兄弟がいた。
その五十年後、この町は新しく興った産業のために沸いていた。
その五十年後、この町を取り囲む周辺地帯で紛争が激化した。
その五十年後、この町にロケットの夏がやってきた。
その五年後、この町の郵便局には一人の飾り字職人がいて、一人の少女がこの町を訪れた。
ある時代のある国に興った一つの町が、始まってからなくなるまでの二百年と少しの物語。
この町にはもうこれ以上、手紙は来ない。
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須貝英が主宰する団体、「monophonic orchestra(モノフォニック・オーケストラ)」の第9回公演。
ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説『百年の孤独』とレイ・ブラッドベリの小説『火星年代記』に着想を得た物語。 -
脚本・演出:須貝英
上演期間:2016/09/02(金) ~ 2016/09/07(水)
劇場:3331 Arts Chiyoda
出演:
大石憲/森崎健吾/野口オリジナル/岩崎緑/浅野千鶴 -
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