覗き機関 しんとくまる
-
〽まわるまわる、しんとくまるの、影はくるくる回りだす。
わずか十四で果てるとは、古来まれなり哀れなり。
ただ何事も、夢幻や、水の泡、一期は夢よ、狂え狂え~
“逃げる少年”しんとくまるが覗きみる、崩れゆく世界。
三味線弾き語り+パントマイム+人形操演で贈る覗き機関『しんとくまる』 (木村繁)
説教節は元来仏教の教え、観音信仰の霊験を唱え広める芸能ですが、
この「しんとくまる」の中での観音菩薩は、主人公しんとくを弄ぶかの
ような大変矛盾に満ちた存在です。
信吉長者夫婦の祈願をかなえ「申し子」を授けたかと思えば、自身を軽ん
じたしんとくの生母を殺し、さらに継母の呪詛を手助けしてしんとくを
異形に追いやるのです。正本ではこの後清水へと誘い、乙姫に鳥箒を授け
しんとくを蘇生させるという運びなのですが、木村の描く物語はどっこい、
こうはならない興味深いものです。
かつて四天王寺の西門は海に面していて極楽浄土の入り口とされてき
ました。物語の後半、補陀落渡海へと誘い込む観音菩薩をしんとくまるは
強烈に拒否し、全ての救済から身を閉じます。そこへ尋ね来た乙姫の向日
性が実に頼もしい。「三千人の人々にこの姿を見せて施し受ければ病は
治る」と気丈に説く姿は、土車を引く照手にも通じます。ひいてはこの物語
を語る綱鵬の姿も説教節を連綿と謡い繋いだかつての歩き巫女とも重
なって見えます。
一時はかじ取りを失った稽古場の片隅で、「三千人の人々にこの姿見せ
施し受ければ蘇生できる」というのはまさに演劇行為そのものではないか
と、木村の残したメッセージをかみしめています。(福永朝子) -
劇場:栄能楽堂
出演 :常磐津綱鵬 LONTO 古家暖華
浄瑠璃台本・演出:木村 繁
美術監督 :福永 朝子
浄瑠璃節附 : 常磐津綱鵬
照明 :御原祥子
宣伝美術 :LONTO
制作 :Chang
主催 :ラストラーダカンパニー(有)
Presented byプッペンテロル -
場合に応じて著作権者への紹介などを行いますので、以下のお問い合わせフォームに作品名を明記の上ご連絡ください。